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Dr.下田の新本格焼酎論 第4回


本格焼酎のつくり方:「二酛、三つくり」前編~発酵の「もと」となる酵母を増やす「一次仕込み」


櫂棒による櫂入れ

三和酒類で技術者、経営者として本格焼酎づくりに携わってきた「焼酎博士」こと下田雅彦(しもだ・まさひこ)の語り下ろしによる本連載。ここまで本格焼酎の発酵工程を、「一麹(いちこうじ)、二酛(にもと)、三つくり」という日本古来の酒づくりに則して語ってきました。今回は、いよいよアルコールが生み出される工程「二酛」「三つくり」についてです。

⇒第3回「『一麹』後編~本格焼酎の救世主となった黒麹菌・白麹菌」

語り:下田雅彦(三和酒類 顧問) / 構成:井上健二、Contentsbrain




●「二酛(にもと)、三つくり」について

日本古来の麹菌を使った酒づくりの格言「一麹(いちこうじ)、二酛(にもと)、三つくり」。これは工程上の重要度を示す言葉で、本格焼酎づくりでは前半の発酵までの工程に当てはまります。

原料の米や麦に麹菌を生やす「製麹(せいきく)」=「一麹」の、次の工程が「二酛」、そして「三つくり」です。

「二酛」は、アルコール発酵の主役である酵母を増やすプロセス。そして「三つくり」は、「二酛」で出来上がった「酛」をより大きいタンクに移動させ、さらに主原料と水を加えて、量を増やしてもろみ*1を仕込むことです。

日本における酒づくりは、麹を使った伝統の技を駆使して、世界の他のお酒の発酵方法よりも高いアルコール濃度のもろみをつくり出せる「並行複発酵」を実現します。

*1 もろみ:醸造用のタンクに、蒸し米(蒸し麦)に麹菌を繁殖させた麹、水、酵母などを入れて仕込み、でんぷんの糖化とアルコール発酵が進んだ状態のもの。これを漉(こ)して日本酒の原酒、あるいは蒸留して本格焼酎の原酒ができる。

(作:下田雅彦)
前回は、本格焼酎の製造工程のうち、主に「一麹」に当たる麹づくりについて説明しました。本格焼酎の品質を左右する大麦の処理方法と、蒸し方、製麹(せいきく)に使われる麹菌についても言及しました。

ステップ1 麹原料と精白
ステップ2 原料処理
ステップ3 製麹

今回は、ステップ4の「一次仕込み」(二酛)と、ステップ5の「二次仕込み」(三つくり)についてお話しします。いよいよ酒づくりの本番であるアルコールが生み出される工程です。

ステップ4 一次仕込み

「二酛」に当たるのが「一次仕込み」。発酵の主役である酵母を増やす

米や麦に麹菌を生やして麹をつくった次の段階が一次仕込み。麹、水、酵母を一次仕込み用のタンクに投入します。「櫂棒(かいぼう)」と呼ばれる長い棒で底の方からかき回して、よく混ぜ合わせた後の固液混合のどろどろした状態を酛、一次もろみ*2といいます。

一次仕込みの目的は、アルコール発酵の「もと」となる優良な酵母を増やすことです。この工程が「一麹」の次に重要な「二酛」と言われるのは、雑菌汚染を防御しながら、目的とする酵母だけを増やすことが至難の業だからなのです。

現在の本格焼酎づくりでは、黒麹菌・白麹菌が生成する多量のクエン酸が麹に含まれ、一次もろみを酸性にすることで、雑菌汚染を強力に防御します(黒麹菌・白麹菌については第3回参照)。クエン酸はレモン果汁にも含まれる有機酸で、一次もろみをろ過した液体はかなり酸っぱい味がします。

*2 酛、一次もろみ:「酒母(しゅぼ)」とも呼ばれる。


仕込み用タンクの中でぶくぶくと泡を立てて発酵しているもろみ
櫂棒による櫂入れの様子

麹、水、酵母を混ぜ合わせたら、いよいよアルコール発酵の主役、酵母の増殖が始まります。かつては酒蔵に住み着いた「蔵付き」の酵母が増殖してくるのを待っていましたが、酵母の純粋培養技術が確立された現在では、仕込みの時に種酵母(たねこうぼ)が添加されます。本格焼酎づくりの種酵母には、市販されている酵母、あるいはメーカー独自の酵母が使われます。

一次仕込み後5~7日発酵して得られる一次もろみのアルコール度数は通常16〜18%程度。もろみの液中には1ml中に2~3億個もの酵母菌が存在し、次の二次仕込みの「主発酵」に備えます。この一次もろみの状態が、その後の二次もろみの発酵に大きく影響します。


開放発酵では、腐造(腐敗)を抑える工夫が欠かせない

酒づくりは洋の東西を問わず、歴史的に「開放発酵」の環境で行われてきました。日本酒も本格焼酎も例外ではありません。開放発酵とは、仕込みに用いるタンクや桶を完全に密閉しないオープンな環境で発酵を行うこと。開放発酵の環境下では外気と接しているため、製造場に生息する雑菌や、人や物から持ち込まれる汚染微生物が混入して繁殖し、それによる腐造(腐敗)が起こる危険と常に隣り合わせです。

仕込み直後のもろみの中では、さまざまな汚染微生物が増殖の機会をうかがい優勢を競い合っています。良い酒をつくるためには、良い微生物のみを活動させるための「仕掛け」が必要なのです。江戸時代に完成された、冬の寒い時期に行われる日本酒の「寒(かん)づくり」は、「生酛(きもと)」により乳酸菌がつくり出す乳酸を利用して清酒酵母だけを増殖させる腐造防止の仕組みを確立しました。

一方、しっかりした寒づくりができない、温暖な南九州の日本酒づくりでは、恒常的な腐造に悩まされていました。それで約500年前、蒸留技術が伝わると日本酒の酛を蒸留し、高濃度のアルコールを回収し保存できる蒸留酒がつくられるようになります。しかし、健全な発酵に導く南九州独自の腐造防止の「仕組み」が完成するのは、「黒麹菌、二次仕込み法」が登場する明治維新以降(1900年代)の技術革新を待たねばなりませんでした(寒づくりと生酛、黒麹菌と二次仕込み法については後編で詳しく説明します)。

腐造防止という視点で世界の酒づくりを見ると、日本酒と同じ醸造酒のワインの腐造防止は、亜硫酸塩の添加で雑菌繁殖と酸化を抑制します。ビールでは麦汁の煮沸殺菌、ホップの制菌効果に加え、密閉環境での発酵により腐造リスクを排除しています。本格焼酎と同じ蒸留酒のウイスキーも開放発酵ですが、仕込み時に大量の酵母を加えることでスムーズに発酵を立ち上げ、50〜60時間と短時間で発酵を終えることで、雑菌の影響を最小限に抑えます。


本格焼酎づくりにおける「良い酵母」の3つの条件

お酒をつくる酵母は、一部の例外を除いて分類学上の学名は「Saccharomyces cerevisiae(サッカロマイセス・セレビシエ)」という菌です。しかし学名は同じでも、酵母によってそれぞれ長所や特徴があり、日本酒用と焼酎用でも異なる酵母が使われます。


酵母の拡大写真(写真提供:独立行政法人酒類総合研究所)

焼酎づくりにおける良い酵母の条件は、3つあります。1つ目は、クエン酸が含まれる酸性の一次もろみで速やかに増殖し発酵を開始すること。そのため、使用される焼酎酵母は、泡盛や芋焼酎、米焼酎などの良質な焼酎もろみから分離された酵母、もしくはその系統の酵母です。

2つ目は、二次もろみの中で最後まで発酵力が持続すること。糖化と発酵が同時に進行する並行複発酵(次回詳述します)では、酵母自身がつくり出したアルコールに負けず、アルコール度数が15~16%を超えても元気に発酵を継続できるのが、良い酵母なのです。

そして3つ目。酵母は発酵する際にさまざまな香気成分や味に関与する成分を生成します。蒸留後の原酒の品質が良いものであることが大事な条件の1つです。酵母によっては不快な成分を生成したり、味の調和が悪いものになったりすることもあるのです。

ちなみに三和酒類では、当初は市販の酵母を用いていましたが、現在では私が単離*3した「いいちこ酵母」や自社開発の専用酵母を用いています。「いいちこ酵母」は、「鹿児島酵母」という市販の酵母が自然に変異して当社の製造場内に住み着いた株であり、発酵がより旺盛で増殖力も高いのが特徴。この点については、第1回で触れた通りです。

*3 単離:性質の異なる微生物が混ざって共存している状態から、目的の微生物だけを単一の状態で取り出し培養すること。

⇒第3回「『一麹』後編~本格焼酎の救世主となった黒麹菌・白麹菌」

主要参考文献:「本格焼酎製造技術」(日本醸造協会、1991年)、「酒づくりのはなし」(秋山裕一、技報堂出版、1983年)、「発酵と醸造 Ⅱ」(東和男編著、光琳、2003年)、「世界のスピリッツ 焼酎」(関根彰、技報堂出版、2005年)、「焼酎の履歴書」(鮫島吉廣、イカロス出版、2020年)


下田雅彦(しもだ・まさひこ)
三和酒類株式会社 顧問 工学博士
1955(昭和30)年生まれ、大分県豊後大野市出身。大阪大学工学部醗酵工学科卒業後、兵庫県の日本酒メーカーに勤務。1984(昭和59)年にUターンで三和酒類に入社。専門技術者として焼酎製造技術開発、商品開発、品質管理に従事しながら、1998(平成10)年に大阪大学工学博士号取得。1999(平成11)年に取締役に就任後、2017(平成29)年、オーナー家以外から初の社長に就任。2023(令和5)年、取締役会長、2025(令和7)年10月より顧問を務める。