- 後閑信吾(ごかん しんご)
- SG Groupファウンダー
- 1983年生まれ、神奈川県出身。2001年にバーテンダーとしてのキャリアをスタート。2006年に単身渡米し、ニューヨークの名店「Angel’s Share」の4代目ヘッドバーテンダーを務める。2012年、「バカルディ・レガシー・カクテル・コンペティション」全米大会、世界大会で優勝。2014年に中国・上海に「Speak Low」をオープン以後、国内外に新しいコンセプトのバーを次々とオープンさせる。2017年にはバー業界のアカデミー賞といわれる「Tales of the Cocktail®(TOTC)」で「インターナショナル・バーテンダー・オブ・ザ・イヤー」を受賞。2019年に「Asia’s 50 Best Bars」で個人に贈られる最高賞「Altos Bartenders’ Bartender Award」(バーテンダーが選ぶバーテンダーのための賞)、2021年に「Roku Industry Icon Award」(業界に大きな影響を与えた人物を表彰)をそれぞれ受賞。2026年にはNYのバー「Sip&Guzzle」がNorth America’s 50 Best Barsで1位に輝く。斬新なアイデアと行動力を武器とする、国内外のバー業界の風雲児。
インサイト
バーテンダー/SG Groupファウンダー 後閑信吾 × 三和酒類 顧問 下田雅彦
Dr.下田の新本格焼酎論 スペシャル対談
バーシーンから本格焼酎を世界へ広げる

文:井上健二 / 写真:三井公一 / 構成:Contentsbrain
●後閑信吾さんとSG Group
後閑信吾さんが率いるSG Groupは世界の大都市にバーを次々にオープンし、それぞれ「The World’s 50 Best Bars」などで上位に選ばれるなど高い評価を得ています。最近ではニューヨークのバー「Sip & Guzzle」が2026年の「North America’s 50 Best Bars」1位に。後閑さんご自身も、2012年に「バカルディ・レガシー・カクテル・コンペティション」世界大会に北米代表として参加し優勝。2017年に Tales of the Cocktail®で「インターナショナル・バーテンダー・オブ・ザ・イヤー」、2019年に「Asia’s 50 Best Bars」で「Altos Bartenders’ Bartender Award」、2021年に「Roku Industry Icon Award」など個人最高賞を多数受賞しており、今最も注目されるバーテンダーの一人です。
世界のバーシーンで本格焼酎の評価は格段に高まっている
――世界のバーシーンを知る後閑さんから見て、海外では本格焼酎はどう捉えられているでしょうか。
後閑信吾(以下、後閑) 僕がアメリカへ行ったのは、ちょうど20年前の2006年です。ニューヨークにある「Angel’s Share*1」というジャパニーズ・スタイルのバーで働いたのですが、ある日先輩に「焼酎って英語でどう説明すればいいですか?」と聞いたら、「ジャパニーズ・ウオッカと言っておけばいい」と言われました。今思えばロシアの地酒に「ジャパニーズ」とつけるなんてメチャクチャですよね。その時代から考えると、現在は焼酎に対する海外のバーシーンでの理解も格段に進んでいます。
*1 Angel’s Share:1993年に開店したジャパニーズ・スタイルの伝説的バー。当時の一般的なアメリカのバーとは一線を画し、少人数で静かにカクテルを楽しむスタイルで、後閑さんをはじめ多くの著名なバーテンダーを輩出している。
下田雅彦(以下、下田) 今は「Shochu」で通じますか。
後閑 通じます。あえて英語にするなら、「Japanese Traditional Spirits(日本の伝統的な蒸留酒)」、麦焼酎なら「made from barley(麦からつくられる)」と続けます。
少なくとも今NYのバーテンダーで本格焼酎を知らなかったら、「え、知らないの?」という感じですね。アメリカ以外でも、「The World’s 50 Best Bars」に名を連ねるような一流のバーなら、メニューに本格焼酎を使ったカクテルが必ず1つは入っています。
そうなった原動力は、三和酒類さんの「iichiko彩天(いいちこさいてん)」がアメリカで発売されたことが大きいと思います。本格焼酎をより広く普及させるには、アメリカでは特にバーテンダーに認知されることが大切なのです。バーテンダーとか酒屋のようなプロに広めて、そこから消費者に落とし込んでいく戦略が効果的です。
下田 「iichiko彩天」もその戦略をとりました。
後閑 アメリカでは、スポーツバーのバーテンダーでもカクテルは一通り作れるくらいバー文化が発達していますから、そのレベルまで入り込めたら本格焼酎はもっと普及し、それを契機に世界でも広がるでしょう。
下田 「麹」についてはどうですか。
後閑 本格焼酎と比べると、まだ麹はポピュラーではありませんね。ただ、柚子や抹茶のような日本の食材を使うのがクールだという風潮が海外にはあるので、シェフやバーテンダーの間では麹についての理解は徐々に広がってきている印象があります。

カクテルベースに不可欠な「フルーツ感」
――本格焼酎がバーテンダーにより広く認知されるためには、どのようなピースが必要でしょうか。
後閑 不可欠なのは「フルーツ感」です。フルーツ要素が入っていないカクテルは多分存在しません。例えばジントニックにはライムが入るし、オールドファッションドのようなシンプルなカクテルにもオレンジピールを飾ります。
ベースとなる蒸留酒にフルーツ感があり、さらにそこにフルーツのニュアンスを加えるからこそ、飲み物としてまとまりが生じる。混ぜただけで要素がバラバラだったら、美味しくないですからね。
例えばウオッカはカクテルベースとしてポピュラーですが、ほぼ純粋なアルコールで原料の風味などはなく、フルーツ感に乏しい。現代のバーテンダーが求めるのは、ウオッカではなく本格焼酎の方向性だと思います。本格焼酎にはウオッカにはない複雑味があり、それがカクテルベースとしての強みになる。

下田 それはいいことを聞きました。本格焼酎のお手本は日本酒。バナナやパイナップルのような日本酒の吟醸香*2は「いいちこ」にも感じられ、麹原料の大麦を通常より多く削ってフルーティーな香りを最大限に引き出した商品もあります。
*2 吟醸香:一般に、日本酒で原料の米を多く削り、低温でゆっくりと発酵させることでお酒に感じられるようになる、フルーティーな香り。
後閑 それでカクテルを作ったら面白いでしょうね。
「ネクスト・メスカル」としてブレイクするポテンシャル
下田 私の中で、洋酒で作るカクテルは、基本的にドライでシャープなイメージです。余韻を残さず、後味をどんどん切っていく文化だと感じています。
ところが本格焼酎で作るカクテルは芳醇(ほうじゅん)で余韻が残ります。それは食事と一緒に楽しむうえではポジティブだと思いますが、バーシーンではマイナスにならないのでしょうか。
後閑 興味深い視点ですね。世界的にかつては余韻のない、シャープなカクテルが好まれる傾向がありました。でもそのトレンドは変わりつつあり、余韻が残るロングフィニッシュなものも増えています。発想が自由になり、バーテンダーと飲み手の許容範囲が広がっている印象があります。
下田 それを聞いて安心しました(笑)。
後閑 よい例が、僕が好きなシェリーです。以前はドライな種類であるフィノ*3くらいしかカクテルには用いられなかったのに、現在では濃厚で甘口のペドロ・ヒメネス*3まで使われるようになってきました。
*3 フィノ、ペドロ・ヒメネス:いずれもシェリーの種類。シェリーは原料であるぶどうの品種、製法によって味わいが変わり、さまざまな種類に分類されている。フィノはライトボディですっきりした辛口、ペドロ・ヒメネスは極甘口。
下田 私もシェリーは大好きです。
後閑 シェリー以外でも、ペルーやチリのピスコ、ブラジルのカシャッサなどなど、数年前からバーシーンではやり出した中南米原産の蒸留酒は、フレーバーに個性があるロングフィニッシュタイプです。
下田 ぜひ飲み比べてみたいです。
後閑 中南米の蒸留酒のなかで、僕が個人的に本格焼酎のベンチマークになり得ると考えているのは、メキシコのメスカルです。メスカルはいま世界中で大人気の蒸留酒。僕は「The SG Shochu*4」を企画した頃から、本格焼酎は将来「ネクスト・メスカル」になる可能性があると思っていました。
*4 The SG Shochu:後閑さんが企画し、2020年に発売されたバー向けのカクテルベースの本格焼酎。「KOME」「MUGI」「IMO」の3タイプがあり、「MUGI」の共同開発を三和酒類が担当。当時の三和酒類の社長は下田。
――メスカルは、リュウゼツランという植物からつくられる伝統的な蒸留酒。なかでもアガベ・アスールというリュウゼツランからつくられるのが、テキーラですね。
後閑 はい。僕が渡米した20年前、メスカルはどのバーにも置かれていなかった。ところが、いまでは逆にアメリカを含めてメスカルを置いていないバーを探すのが難しいくらいになっている。この20年で最も成功したお酒の一つです。
下田 どんなところが受けたのでしょうか。
後閑 原材料をローストするところから来る、超スモーキーな独特のフレーバーが、強く濃い味わいを好むアメリカの消費者にもバーテンダーにも深く刺さったのです。原材料や製法に多様性があるのも特徴で、バーテンダーとしても創作意欲を強く刺激されるスピリッツです。
下田 メスカルは16世紀からという長い歴史があると聞きます。本格焼酎も同じくらいの歴史と伝統があり、製法も原材料も多種多様。私は世界を見渡しても、本格焼酎ほどテロワール*5が豊かで、ストーリー性に富んだ蒸留酒はないと思っています。そこに「ネクスト・メスカル」としての伸び代がありそうですね。
*5 テロワール:気候、土壌、地形、人の営みなどが生産物の風味や個性に与える総合的な影響を指す概念。ワインにおけるぶどうの生産環境などを指すことが多い。
「進化する伝統」を掲げながら、世界標準の蒸留酒へ
――2026年3月には後閑さんが新たにカクテルベースとして開発した泡盛「AWAMORI DE LEQUIO(アワモリ・デ・レキオ)」が発売されました。泡盛は本格焼酎と同様に麹菌を使ってつくられる、沖縄の伝統的な蒸留酒です。

下田 「LEQUIO」という言葉の意味を知った時、後閑さんらしいネーミングセンスだと感心しました。
後閑 ありがとうございます。「LEQUIO」は、沖縄のかつての呼称・琉球を指す古い外国語です。いまのところは日本限定発売ですが、今後はアメリカや中国などでも発売する予定です。
下田 泡盛をカクテルベースにするのは難しくなかったですか。
後閑 そうなんです。泡盛には、マツタケやトリュフを思わせるような独特の「きのこ感」があります。この、きのこ感と、カクテルで大事なフルーツとの相性は最悪で。コーヒーやナッツ系以外の風味とはまったく合わないです。
ところが、「さくら酵母」という新しい天然酵母を用いることにより、フローラルで柑橘系フルーツともマッチする従来にない泡盛ができたのです。さくら酵母は、一緒に開発してくれた沖縄の泡盛メーカー・瑞穂酒造の蒸留最高責任者である仲里彬(なかざと あきら)さんが、沖縄の桜の花から分離した酵母です。
下田 ならばカクテルにも使えますね。
――本格焼酎や泡盛のような長い伝統を持つ日本のお酒を、カクテルベースという新しいカテゴリーで発展させるうえで、大切にしている考え方はありますか。
後閑 「The SG Shochu」のラベルをよく見ていただくと、「A TRADITION IN EVOLUTION」(進化する伝統)と書いてあります。伝統とはずっと同じだから守られるものではなく、状況に応じて常に進化し続けるからこそ末長く残るものになる。カクテルベースへの展開もその一環だと捉えています。
下田 「進化する伝統」っていい言葉ですね。私もまったく同意見です。この連載で強調しているのは、本格焼酎は決して伝統にあぐらをかかず、立ち止まることなく進化を続けているという事実。製法だけでなく、飲み方だって進化してもいい。その柔軟性が、日本の伝統的なお酒がこの先もずっと愛される道を拓くのだと思います。
後閑 いまでは当たり前の減圧蒸留にしても、最初は「けしからん。そんなの焼酎じゃない」という抵抗勢力がいただろうと思います。ソーダ割りだって違和感を覚えたつくり手は少なくなかったでしょう(笑)。

下田 かつて本格焼酎の一般的なアルコール度数は35度程度と高めだったので、小さなぐい呑みで舐めるように飲んでいたそうです。その後、密造酒を取り締まるため、標準度数として25度と20度が一般的になり、お湯割りや水割りという飲み方がされるようになった。どのような飲み方にも対応できる、本格焼酎が持つ懐の深さの延長線上にカクテルベースとしての可能性があると思います。
後閑 アメリカをはじめとする各国で、食前・食後中心に飲まれるカクテルのベースとして本格焼酎が浸透した段階で、「実は本場の日本にはこんな伝統的な飲み方があり、他のスピリッツとは違って、優れた食中酒でもある」とアピールすれば、単純にマーケット規模は2倍になります。もともとのポテンシャルはいったん隠しておいて、まずは広く受け入れられやすいカクテルという領域で世界へ打って出る戦略は間違っていないと思います。
下田 後閑さんからそう言っていただけると励みになります。貴重なお話、ありがとうございました。
- 下田雅彦(しもだ まさひこ)
- 三和酒類株式会社 顧問 工学博士
- 1955年生まれ、大分県豊後大野市出身。大阪大学工学部醗酵工学科卒業後、兵庫県の日本酒メーカーに勤務。1984年にUターンで三和酒類に入社。専門技術者として焼酎製造技術開発、商品開発、品質管理に従事しながら、1998年に大阪大学工学博士号取得。1999年に取締役に就任後、2017年、オーナー家以外から初の社長に就任。2023年、取締役会長、2025年10月より顧問を務める。