- Justin Park(ジャスティン パーク)
- ハワイ生まれ。ホノルルのレストラン「Buca di Beppo」勤務をきっかけに飲食業界に入り、ホノルルの「The Manifest」でバーマネージャーを務める中でクラフトカクテルの世界に魅了される。ニューヨークの「Death & Company」や「PDT」などのバーを訪ね、知見を増やしていく。2012年「Most Inspired Bartender」(Bombay Sapphire/GQ)、2014年「Shake It Up! Cocktail Competition」総合優勝、「World’s Best Mai Tai Competition」で3度優勝。
2015年、ホノルル市に友人の実業家・Tom Park氏と共に「Bar Leather Apron」を開業。洗練されたホスピタリティー、クラシックカクテルと革新的なクラフトカクテル両方への深い造詣で注目を集め、「North America 50 Best Bar」2023年41位、2025年73位、2023年の「James Beard Award Outstanding Bar(最優秀バー)」(ハワイのバーとして初の快挙)などを受賞。2021年、ホノルル市に料理とカクテルのペアリングを軸とした「Bar Maze」を開業。共同経営者でシェフのKi Chung(キー チュン)氏の料理とJustin氏のカクテルをペアリングした高品質のおまかせスタイルで人気を博している。
with Bartender
Exploring the journeys and the thoughts that shape globally active bartenders behind the bar.
2026.09.28
Justin Park(ジャスティン パーク)
料理とカクテルが一緒になって初めて存分に楽しめるということが大事
何よりも寛いでもらえる場所を提供したい。そんな思いでJustin Park(ジャスティン パーク)さんがハワイ・ホノルルに開いた「Bar Leather Apron」は、瞬く間に全米で、世界で注目される人気店となりました。その後コロナ禍を乗り切って開いた「Bar Maze」では料理とカクテルのペアリングをおまかせスタイルで提供し、新たな顧客を獲得しています。Justinさんが重視する「ストーリー」とは何か。料理とカクテルのメニューの発想の決め手などを伺いました。
文:鈴木昭 / 写真:三井公一 / 構成:Contentsbrain
取材場所:ザ・リッツ・カールトン福岡 「BAY」(福岡市中央区大名2-6-50 福岡大名ガーデンシティ)
ハワイの友人が立ち上げたバーのコンセプト設計を任される
――バーに訪れるお客様って、お店にどんなことを期待していると思いますか。
その答えは、私たちがつくってきたバーに表れていると思っています。そこは、カクテルを味わったり、時間を楽しんだりするために人が訪れる“目的地”のような場所だと言えるかもしれません。でも私にとって、バーはそれだけにとどまるものではありません。あなたと私とでは、同じ体験をしても感じ方や表現は違いますよね。バーには、こちらが用意する体験だけでなく、お客さん一人ひとりが持ち込むものも含まれていて、その全てがその場をつくっていると思うんです。
それは、お客様にストーリーを経験していただく場所とも言えます。例えば、1杯のカクテルが、どのように誕生して、作られてきたかという歴史。クラフトカクテルと、伝統的なクラシックカクテルとは、どこがどう違っているのかとか。お客様が席に座ってから、そのカクテルを飲むまでのすべての体験がストーリーだと考えています。
私は、ストーリーを語ることを大切にしてきました。私が生まれ育ったハワイの文化の中で、ストーリーテリングは非常に重要な要素だからです。レストランなどで働き始めたときに、ゲストに対してストーリーを作っていくような感覚がありました。そしてそれが最も発揮できる場所が、おもてなしをして、体験としてのストーリーを語るバーカウンターの中だと感じていました。それが、バーテンダーになるきっかけだったと言えるかもしれません。
――もう少しJustinさんのおっしゃるストーリーテリングについて教えてください。
私が言っているストーリーとはただひとつの物語のことではありません。体験を生み出すことなんです。バーに足を踏み入れる人は、一人ひとり違う理由でここに来ています。そして私が個人的に面白いと思うのは、その一人ひとりの異なるバーでの体験をキュレーションすることができることです。つまり、体験そのものがストーリーなんです。
――Justinさんのバーテンダーとしてのキャリアはホノルルのお店で始まったのですか。
はい。ハワイ(オアフ島)は小さい島です。私が飲食店で働き始めた頃は、ハワイの多くのバーは観光客に向けて作るトロピカルなカクテルが中心で、本格的なクラシックカクテルを出す店がないなあという印象でした。自分としては、まずはクラシカルなカクテルを作りたいと思っていました。しかしハワイではそれを学べる師匠も見つかりませんでした。そんな環境の中で、YouTubeやWebサイトで情報を得たり、サンフランシスコやニューヨークなどの大都市のバーを訪れて、自分なりにカクテルについて学んできました。
いくつかの店でバーテンダーとして働き、いろいろな方々から影響を受けました。とりわけ、ホノルルの友人が運営しているバー「The Manifest」では多くのことを学びました。そこで私はまるで共同経営者のように、店の方向性などを決めさせてもらいました。どうすればユニークな部分をお客様に見せられるのかということを常に考えていたので、カクテルもクラシックカクテルだけではなく、特別なもの――クラフトカクテルを作りたいと考えていました。そのために、カクテルの歴史などもいろいろ勉強しました。
カクテルに対する情熱や愛情が生まれたのは、この「The Manifest」で働いていたときのことです。この時期に、カクテルのコンペティションにも積極的に参加するようになりました。ハワイのローカルな大会から、全米の大会まで様々な大会にエントリーしました。大会で勝てば、「The Manifest」に目を向けてくれる人が増えるのではないかという期待もありました。
それが意外とうまくいって、いろいろな大会で受賞できて、さらに国際的なコンペティションにも参加できるようになっていきました。日本のオーセンティックなバーテンディングのスタイルを知ったのもその国際大会がきっかけです。
日本文化を取り入れた「Bar Maze」
――多くのコンペティションで輝かしい賞を受賞された後、2015年に「Bar Leather Apron」を創業されました。写真を拝見すると、クラシカルで落ち着いた感じのお店ですね。
この店で何よりも大事にしたのは、ビジネスライクな店にはしないということでした。それまでは、注文を受けて、カクテルを出し、お金をいただく。そのやりとりを繰り返してきましたが、それだけでは満足できなくなった。ひとことで言えば、お客様にくつろげる環境、例えば私の家のリビングに来てもらうような感じを提供したいと思いました。席のスペースもゆったりしていて、音楽はジャズや、最近流行している心地よいハワイ音楽を流していますし、照明も暗めにしています。
――「Bar Leather Apron」は「North America 50 Best Bar」や「James Beard Award Outstanding Bar」などで高い評価を受けました。その後、2022年にオープンした「Bar Maze」は、「Bar Leather Apron」とはまた違ったコンセプトのお店ですね。
「Bar Maze」のコンセプトづくりでは日本の影響を受けています。ネーミングも日本語の「混ぜる」から“Maze(マゼ)”と付けました。料理やドリンクのサービスは日本の高級寿司店に倣い、“おまかせスタイル”で提供します。店内の内装も、細部にまでこだわって手を入れるという日本の文化から学んでいます。
――店内壁面にカーテンのように垂らした組子細工調のデザインの幕(スクリーン)が印象的です。
細かい木製部品の組み合わせで美しい工芸品を作り上げる「組子細工」というのは、まさに日本文化の象徴的な存在だと思います。「Bar Maze」の内装に使われている壁の装飾は組子細工を模したデザインです。ハワイのオアフ島には、Koʻolau(コーラウ)とWaiʻanae(ワイアナエ)という2つの山脈が連なっていて、組子細工風の絵柄で一方にKoʻolau山脈、もう一方に星と太陽を表現しています。
そういえば、シカゴのバー「kumiko」(百瀬ジュリアさんが2018年にオープン)(★リンク→https://www.wa-spirits.com/ja/bartender/julia-momose)は、店名だけでなく内装デザインに本物の組子細工が使われていますよね。「Bar Maze」をオープンした後でそのことを知ってびっくりしました。まったくの偶然なんですよ。「Bar Maze」がコピーしたなんて思わないでくださいね(笑)。
店舗のコンセプトは当初、居酒屋スタイルのカクテルバーを考えていました。タパススタイル⋆で提供する立食形式のもの。ところがコロナ禍の影響があって計画を白紙に戻し、そこで新たに料理とカクテルとのペアリングでやってみよう、という今のコンセプトが生まれました。店内の照明は明るくして、音楽は古い曲も新しい曲も、いろいろ混ぜて流しています。
⋆ タパススタイル:スペイン発祥の小皿料理を複数テーブルに置いて、シェアしながら楽しむ食事のスタイル。
――料理も酒も「おまかせ」というのは、米国ではまだなじみのないサービススタイルだと思うのですが、お客様の反応はいかがですか。
実はハワイは、アメリカの中では少し例外的な地域で、おまかせスタイルが比較的よく知られています。日本の影響が強く、日本スタイルの高級レストランも多いです。ただ、日常使いというよりは、お祝い事や記念日に行く“特別なレストラン”という位置付けです。その中におまかせスタイルの高級店もあり、繁盛しています。
ペアリングに出す料理とカクテルの発想ルール
――食中酒というと、一般的にはワイン、日本食なら日本酒や焼酎が定番だと思います。料理とのペアリングとしてカクテルを出すというのは、革新的な試みですね。メニューを発想する順番は、Justinさんの作るカクテルが先で、それに合わせて料理を作るのですか。それとも料理が先でそれにカクテルを合わせるのですか。
どちらのプロセスもあります。時々、その料理に使う材料の1つをピックアップして、それをカクテルに入れるということもやっています。何よりも料理とカクテルが一緒になって初めて存分に楽しめるということを大事にしています。
ペアリングのコースを決めるうえで、大体定まったスタイルがあります。最初は料理もカクテルも、軽くフレッシュな味わいのものをお出しします。その次は酸味のあるもの、その次は食感にテクスチャーが感じられるもの。ここで言うテクスチャーとは、例えば料理ならソースにバターをいっぱい使って濃厚な感じを出す。カクテルならば、卵やクリームを使ってレイヤーを作るといったことです。その次はちょっと味わいが深く豊かなもので、最後に甘いものをお出しするといった感じです。
ただ、今回、日本でいただいた日本食のおまかせ料理で、一番最後にご飯と漬け物と味噌汁が出てきたのですが、これはすごく気に入りました。ハワイでは味噌汁は最初に出てくるものです。もしかしたらこれをヒントにして、これまでの料理とカクテルのコーススタイルを変えるかもしれません。
お客様の中には、お酒に強くカクテルを5杯ぐらい飲む方もいらっしゃって、そういった方は合計のアルコール量がどうしても多くなりがちです。一方、お酒に弱い方もいらっしゃって。どちらの方にも楽しんでいただくために、カクテルはしっかりとした味わいを保ちながら、アルコール度数はできるだけ抑えたいと考えています。その点、一般的な焼酎はアルコール度数が25度程度と低めなので、そうしたニーズに対応しやすくて、とてもありがたい存在です。そのほか、ノンアルコールのカクテルメニューも提供しています。
――ところで、Justinさんが最初に焼酎を飲んだというのはいつ頃のことでしたか。その印象はどうでしたか。
ハワイの多くの飲食店には焼酎が置いてあり身近な存在なのですが、焼酎だと意識して飲んだのは20年くらい前のことです。初めて意識して飲んだときはスタイルがソーダ割だったこともあり、とても軽くて、すごく飲みやすいスピリッツだなという印象でした。
――本格麦焼酎「iichiko彩天」は、ウイスキーやジン、ウオッカのようにカクテルベースとしてお使いいただけるようアルコール度数を43度まで高めています。実際にカクテルに使ってみた感想を教えてください。
これはバーテンダーだけでなく、焼酎を飲んでいる人全員が感じることだと思いますが、一般的な焼酎と「iichiko彩天」は結構違うんです。その麹由来の味わいが一般的な焼酎よりもより強いですね。カクテルに使う場合も、今まで使っていた焼酎を「iichiko彩天」に差し替えたとしたら同じ飲み物にはならない。今までの焼酎という認識を一旦変えないと、「iichiko彩天」はうまく使えないなという感じがしました。新しいジャンルのスピリッツとも言えるのかもしれません。